from藤田 誠
言語聴覚士
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『想定を超える可能性と影響力 周囲への感謝と反省』
はじめまして。藤田と申します。
現在は医療機関の中で言語聴覚士として、子ども達と関わらせていただいております。
脳のリハビリやトレーニングもおこなっております。あと、ちょこっと学校の先生もさせてもらっています。※ちなみに一般的には、STは言語練習、記憶 や思考などの脳の力の評価や治療、嚥下(食べる)練習、発達評価など行うセラピストです。
『発達障がい』について何か話を…
日ごろ、たくさんの人から一番多く求めていただく内容です。教育機関や行政からはもっと対象を絞って、PDD、LD、ADHD、、、の○○のタイプはどんな特徴?どのような対応をしたら?などのご質問を多くいただきます。
でも、あえて、全く分からないと言いたいです!(専門家としては失格ですね…)。私たちが、答えは出ている、分かっていると感じられるほど簡単で固定され たものでなく、もっともっと大きくて不思議で深い世界なのです。だからずっと知りたいと思っていたい。だからずっと悩んでいたい。だからずっと想像して相 手とお互いに思いやっていきたいと考えます。また、そばにいてくれるお母さんやお父さん方からも、いっぱい感じたもの、新しいアイデアを教えてもらいたい と思っています。
ただ、これまでたくさんの子ども達と一緒に時間を過ごさせてもらって、今、ひとつ確実にいえることは、彼らは真実であるということです。真実の欲求、真実 の感性、真実の理解と表現を持って、力強く生き抜いているということです。障がいをもっているのではなく、社会の障害をいっぱい乗り越えなければいけない使 命を持った素敵な子ども達と理解すると良いかもしれません。そして、私たちを導いてくれる、生命を感じさせてくれる、一生発達・成長させてくれる存在として『発達生涯』と記したいくらい。私たちの方が彼らからたくさん教えてもらうのです。
例えば…どこかで『今日は学習障がいLDについてお話してください』 とかあると、本音は『すごく嫌だなー』って思います。なぜなら、学習障害の特徴のある 誰のどの場面のこと?何で1つのくくりとして知りたいの?って言いたくなるくらい複雑で、一人の人間がこれはこうって決めてはいけない部分なんです。こん な場面でLDの一部の情報を話そうものなら、聞き手は答えがほしくて困っていると感じている人たちであれば、話した内容が目の前にいる対象の子どもの全 て、それだけの個性になってしまうことがあるのです。子ども達に対して常に、『考えて、悩んで、共感して…』を教育者としてもしなくなってしまうのです。 『君のこと知ってるよ』という関係性から相手をコントロールしようとするのです。それがその子の可能性を制限することになるのです。
もちろん、『発達障がい』を診断する医療機関にいる側として、教科書に書いてあるような内容を忠実にお話しなければならない場面もありますが(今日はもちろ んしませんが)、それは単なるヒント、切欠であって、そこからが本当に本当に重要だと思います。どのようにして目の前にいる子ども達の才能や個性の理解に 発展させていけるのか。まわりにいてくれる一人ひとりの想像力の課題となります。その人のセンスです。今日、知りたい・理解したいと思ってくれた皆さんは すでに素敵なセンスがあるのです。新しい考え方や人格を受入れる勇気と優しさ、探求する素晴しい能力、想像力を持っているのです。だから期待します。そし て、これからその想像を助けてくれるのも、日々、子ども達から感じさせてもらう新しい感性です。今の時代、発達障がいについて調べると簡単に詳しい内容が出 てくるかもしれません。もう決定された全ての事のように子ども達の特徴として記されています。これまで、たくさん子どもと一緒にいさせてもらった私として は疑問がいっぱいの内容です。その調べ上げた内容で理解した、わかったと思わないでほしい。そこでストップでなく、そこからが本当の子ども達の理解の始ま りなのです。どんなに優秀と評価されている教育者も、経験の豊富な専門家も、熱心で強い家族もまた、分からない世界、感性や思考に出会うと不安でいっぱ い、最初は答えが欲しくなるかもしれません。でも知るだけでなく考えること、思いやることをやめなければ、きっとそれを想像できるようになると思います。 考える、悩む、優しくなる機会を子ども達が再びくれるのです。だからずっとそばにいて見守って、色々と想ってください。その時に自分自身が感じたものを信 じてほしい。なぜ、この子は突然怒ってしまったのだろう、なぜこっちを全然見てくれないんだろう、なぜこの子はこれが楽しいと思うのかな~、なぜこれほど 一生懸命主張するのかな、なぜこの子はいったりきたりを繰り返しているのだろう、なぜ?と思って一緒に見つけてあげるとよいと思います。それが優しい気持 ちとして教えてくれるのです。お母さん、お父さん達が一番の専門家であると思います。
それから別の部分から思うことですが、日々、診療の中で多くの人の脳の力を評価させてもらう仕事(内容には言語以外が多く、記憶の力や知能、注意力、遂行 能力、判断力などさまざま)させていただいて、私自身も含め、人間の脳のシステムや能力の活用がいかに不完全で未熟で不安定な状態が普通であるかを感じさ せられます。つまり全ての人間は生まれながらにして発達障がいといっても良いくらい偏り、鋭く、鈍いのです。だからこそ、自身の成長、変化に期待できるのだ と思います。修正・発展される余地を残した状態なのです。子ども達はその変化する余地の大きさから、最たるところです。また発達障がいのそれぞれの境界? あってないようなもの、例えば自閉症スペクトラムが連続を表すように、各々がその特徴を少しずつもち、みんなその連続の中で個性を研ぎ澄まして自分を発 揮できているのだと思います。みんなつながっている、さまざまな特徴もまた含んでいるのです。それでいいのだと思います。またそれぞれの個性、特徴が世の 中・集団の平板な感性の中で必要不可欠なのです。だからそばにいてくれるのです。
私のところに来てくれている子ども達もまた才能にあふれています。本当にびっくりすることも多いし、大げさでなく奇跡と感じることも多く経験しました(こ れもいつかまた伝えたい)。尊敬できる人格を持っています。診断がついている子、ついていない子、純粋がゆえにお友達を傷つけてしまう子、優しすぎて自分 を傷つけている子、IQが桁違いに高い子、勉強だけがなぜか上手くいかない子、表現力が多彩な子、一人大きく苦しんでいる子… みんな一人ひとり大きな個 性や才能を持って私に教えにきてくれます。一人として同じ感じ方、対応はありえないことです。一人として同じ特徴はないです。持って生まれた力を最大限発 揮することがとても心地よいことであり、成長の目標でもあるように思います。診断や年齢、環境がすべて一緒でも、もちろん全く違う人格で、全く違う理解が 必要なのです。自分と大きく違うから閃きが生まれ、相手を想像する優しさが引き出されると思います。
それから、応援する上で、個性や才能、オリジナリティが強いということは素晴しい、でもそれを表現するには周囲も含めて本人も強くなる必要も感じています。強くなっていいのです。
わくわくさせてくれる子ども達大好きです。そんなチャンスをいっぱいくれる子ども達に日々感謝です。子ども達のことを一生懸命知ろうとしている人、何故だ ろうと考えられる人を尊敬します。子ども達のそばにいてくれる人を信頼しています。
今、こうして新しい感性を受入れる準備をしてくださっているお母さんやお父さん達、とても信頼しています。あなたたちがいてくれるから、新しいアイデアが 社会に生まれていくのだと思います。かつて人間の歴史にも必ずといっていいほど、今で言う『発達障がい』の特徴を持つ人物とその周りの理解者が大きい躍進を くれました(どれほど偉大な人物がいたか是非、調べてみて下さい)。
もっともっと直接お話できれば伝えたいことはたくさんあります。
必ず、彼らの力が必要な時代、彼らが真実であると気付く時代が来ます。そんな時にみんなの力が本当に必要です。
一人ひとりがもっと想像して下さい。相手を知ろうとすることを怠らないで下さい。答えが出ているとしないで下さい。と学校の先生たちへはよく話します。
彼らがより多く持っている極まった脳の処理、思考、感情(どちらが正しく人間の脳を機能させているかは現代では分からない)とは、単に記憶、情報処理の強 い能力ではなく、彼ら一人ひとりには我々が及ばない、純粋な優しさや感情、豊かな表現力、新しい世界を築く力を持っている部分のことです。何かを感じ取る 力、感情、思考などは我々に元来与えられた能力であり、ただ現社会の中ではそれを最高に活用できているかどうかは疑問。逆行して妥協せざるえない部分が大 きいです。脳は矛盾しています。本来の力を抑制させたり、ごまかさなければ順応できない社会でもあります。彼らこそ真実の部分を伝え変化をくれます。変化 を恐れる彼らが変化を生み出し、我々に変化という最高に近づくための成長をくれるのです。
もう一度、私がみんなに伝えたいこと、知って欲しいことはただ1つ、彼らはとても優れている、優しいということ。私たちよりも遥かに純粋であり、本質であ り、強いエネルギーがあって、ユーモアもあって…、場面を変える雰囲気を持っていて、謙虚で、人が好きで、(書ききれない)
私から、そんな子ども達とお母さん、お父さん達へのお願いは1つです。これからも社会の中で子ども達のそばに居させてほしい、一緒の社会で生きていきた い。子ども達・彼らがいるから我々が真実を見失わないのかもしれない。
最後に言語聴覚士としてこれからも心がけること。相手の想いや思考を決定してはいけない、相手の可能性・これからを自分の狭い領域で目星をつけてはいけな い、相手と自分との違いを心地よい感覚として受入れたい、これまでの常識がいかに不安定であるのか・次のステージを求めることができることに気づきたい。 お母さん、お父さん自分の子どもを感じる感受性を信じて、影響力を是非もって新しい時代を一緒に切り開きましょう。自然で子ども達がありのままで活躍でき る教育や地域社会を作っていきましょう。
※発達障害とは病気ではなく、また障害名でもありません。治療しなくてはならないものでもありません。その特徴自体を変える必要もなく、また変えてはいけ ないものなんです。その無理解や周囲からの抵抗・抑制の環境から出てくる二次障害、心や人と人との関係性で大きな影響を持ってしまうものがとても苦しく悲 しいことです。傷つけあいます。問題は発達障がいでなく二次障害をいかに起こさないかです。
子ども達に障害や問題があるなどと感じることは、それを感じる側がすでに理想を決めてしまっているからであります。文献や先人や専門家のお話も時には必要 な要素であるかも知れません。ただし私の言葉も含めて、その内容は絶対ではなく、唯一でなく、不十分であることを前提とさせていただきたいです。
(2008年12月発達障がい勉強会によせて)